2005年のオフサイドルールの変更がもたらす意味について

引き続きジョナサン・ウィルソンの The Question より。今回はオフサイドについてです。2005年にオフサイドのルールが微妙に変更されました。大きく論じられることはあまりありませんが、これによってフットボールを取り巻く環境が変わり、かつてない美しさを見せる素地が生まれた、と彼は論じます。バルセロナがこれほどまでに世界のフットボール界で席巻しており、それが選手のフィジカルに基づいているというよりは、テクニカルな能力に基づいているのは、このルール変更によるところが大きい、と彼は論じます。


http://www.guardian.co.uk/sport/blog/2010/apr/13/the-question-why-is-offside-law-genius


それまでのオフサイドルールについては、Wikipediaなどで調べてみるとよくわかると思います。ちょうどいい感じに1925年の改正以来の流れは書かれてないですし。

オフサイド(サッカー)― Wikipedia

3人制オフサイドの時代には、フットボールがつまらないものになってしまいます。これはオフサイドトラップの流行によりゴールが入りにくくなってしまったためです。そこで現在の2人制オフサイドへ変更されます。これにより、試合あたりのゴール数も飛躍的に増加しました。より大きな影響としては、戦術面での多様化が始まったことでした。

以下訳。強調は僕。サッカーのルールブックなんかは参照していないので、訳が違うかもしれませんが理解はできると思います。

このルール変更は当初はうまくいっていたが、60年代半ばになるとオフサイドトラップが息を吹き返した。これはゾーン守備の出現、そして栄養管理とフィジカルトレーニングの改善による、プレッシングの発展と時を同じくしている。ヴィクトル・マスロフのディナモ・キエフリヌス・ミケルスアヤックスがプレッシングを行えば、自分らの目的に適うように有効なプレーエリアをうまく操るから、スリリングなフットボールが生まれえた。技術的に劣るチーム同士がプレッシングを行えば、ゲームはハーフラインを挟んで狭いバンドに押し込められてしまうことになった。


1990年イタリアワールドカップのゴール数の少なさは、オフサイドに限らず多くのルールを変更する機運になった。オフサイドについては、かつては最後尾から2番目のディフェンダーより後ろでなければオンサイドではなかったが、このディフェンダーと同じ位置にいる選手はオンサイドとみなされるようになった。その後1995年になってこのルールの言い回しについての細かい変更があり、その結果、選手が「その位置にいることで利益を得ている」場合、この選手は[オフサイドが]有効であるとみなされた。これはかつては「利益を得ようとしている」場合、とされていたものだ。


しかしもっとも根源的な変更が起こったのは2005年であり、このルール変更によって、最初にオフサイドが制定されてから142年後、ついにオフサイドは正しく解釈されるようになったようだ。まず、ボールを触っても問題のない身体部位が最後尾から2番目のディフェンダーを越えていれば、その選手はオフサイドであると明確に規定された。これは現実的には確認不可能だ。たとえば上腕とか胴体とかがディフェンダーの後ろから見えた、などという判断を線審が一瞬でできるはずがない。そうではなくて、この変更によって、疑いようのないくらいはるかに攻撃側に有利なものになったということが重要なのだ。


さらに重要なのは、関与という言葉の説明だ。「プレーへの関与とは、チームメイトがパス・ないし接触したボールをプレーないし接触することである。」その後修正が行われ、「オフサイドの位置にいる選手は、他のオンサイドの位置にいるチームメイトがボールをプレーする機会を持たない場合、主審の判断により、ボールをプレーまたは接触する前にオフサイドと見なされる」とはっきりと規定された。


「対戦相手がプレーに参加し、身体の接触の可能性があると主審が判断する場合、オフサイドの位置にいる選手は相手に関与したとしてオフサイドとされる。」


だからオフサイドとなるためには、選手はボールに触れるか、対戦相手と身体的接触の可能性がある位置にいる必要がある。


決定的なのは、相手フォワードをオフサイドポジションにすることができると考えてディフェンダーが一歩前に上がったとしても、そのフォワードを反則とするにはもはや不十分になってしまったということだ。オフサイドの位置にいるチームメイトから離れたところでボールをキープしようとするようなかしこい相手に対しては、オフサイドトラップが有効ではなくなってしまったということを意味しているのだ。


このことは数字がよく物語っている。オプタ社のスタッツによればプレミアリーグの97−98シーズンでは1ゲームあたり7.8のオフサイドがあったが、05−06シーズンでは6.3と急激に減少した。この新規則が施行されて以来オフサイドは減少し続け、今シーズンでは4.8にとどまっている。


昔なら前に進んでオフサイドをとればよいという状況や、ペナルティボックス内にボールが蹴りこまれたときに相手選手が自分の背後にいるという状況の時にディフェンダーはどうすればいいのか、と問う評論家――や監督や選手やファン――は今でもいる。もちろん、彼はボールにチャレンジするべきなのだ。ディフェンダーが前に進むだけでいいなんていうことになるのはどうしてだろう。80年間そうしてきたんだから、というのは言い訳にはならない。


FAにより1863年に採用されたオフサイドはドリブル主体のゲームを想定したものだったけれど、より北部、例えばノッティンガムやダービー、シェフィールドやスコットランドなど、パス主体のゲームが主流だったところで採用されたものは、ゴール前での待ち伏せを阻止するためのものだった。終わりなくボールを蹴り込んで、ゴールキーパーが何人かのフォワードと対峙しなければならないという、危険な状況が続くゲームになることを阻止するためのものだったのだ。


現代のオフサイドルールはこうしたことを阻止しているけれど、すばらしいかたちで出来上がっているので、オフサイドトラップを正当化するという副作用が生まれていない。そしてこのことは、もっとも基本的なレベルにおいても、良いことであるはずなのだ。もちろんだれも、ジョージ・グラハムでなくとも、試合について「うーん、今日の試合で相手はオフサイドをうまくとってくるかなあ」とは思わないだろう。ディフェンダーにディフェンスさせる。マークやブロックやインターセプトやタックルをさせるというのは、良いことのはずなのだ。


中略します。フットボールが生まれた時代よりも選手はより大柄になり、このため小さな選手たちはそうした大柄だけれども技術に劣ることの多い選手たちに混じって、ぶつかり合いのプレーをしなくてはならない、ということを防ぐために、ピッチサイズを大きくしてはどうかという話があったそうです。でもそれは問題ではないと言います。続き。

オフサイドトラップをやめさせれば深く守ることになり、中央の有効なプレーエリアは広がることになる(だから3バンドのフォーメーションから4バンドのフォーメーション表記に変化していったのだ)。この結果選手の身体的な大きさという問題は小さくなり、技術が再び重要になりつつある。チャンピオンズリーグでのバルセロナの優勝とユーロ2008でのスペインの成功はどちらも小さいが技術のあるミッドフィールダーによってもたらされた。でも彼らは二三十年前には絶滅したと思われていた人種だったのだ。


現代のオフサイドルールは十分な評価がなされないままだけれど、かつてない美しいフットボールを生み出す素地を生み出したのは、このルール制定なのだ。