グーグル製品開発の裏側


Google 社の副社長、Marissa Mayerのインタビューより。
http://yahoo.businessweek.com/technology/content/jun2006/tc20060629_411177.htm

Inside Google's New-Product Process

この4年間で Google は中核であるインターネット検索事業を超えて多様化してきています。これまで会社が行ってきたことについてどのような感想を持っていますか?


二つの中核理念から話しましょう。一つは驚異的な人気を得るためには、そうなるものよりも多くの製品をリリースし続けないといけない、というものです。本当に成功するような新たなイノベーションを見つけるためには5つの製品をリリースして、1つか2つうまくいけばよい、と考えることです。そういう基準でいえば私たちは非常にうまくいっていると思います。私たちは製品をリリースできる能力を備えているはずですし、いいものはプロモーションがなくても育っていきます。私たちは、製品は早くリリースし、ユーザーがどういう風に評価するのか、どんな追加機能が要望されているのかを聞いて、そこから機能を加えていきたい、と考えています。

もう一つは、製品をリリースするときは、Google Lab で行うことにしている、ということです。そこで大々的なプロモーションを使わずに口コミで製品を広めていきます。こうすることで開発チームは要求をクリアするための時間を稼ぐことができます。さらにその製品が中核的なニーズを満たしているか、マーケットの規模はどれくらいか、他社の製品と比較してどれくらい競争力があるのか吟味することも可能です。

新製品が成功しているかどうかを判断する基準は何ですか?


基本的にはログから、またユーザからのフィードバックから判断されます。例えば Gmail は驚異的な人気を博すようになりました。GmailHotmailYahoo! Mail ほどの規模はないかもしれません。実際に Gmail では招待制にすることで恣意的にユーザー数を絞ってきました。ですから招待制の制約を取り払えば10倍もの需要があると容易に想像できます。そしてそういう計算をすれば Yahoo!Hotmail と同規模であると考えています。ですから Gmail は本当に成功した製品だと言えると思います。

Google News のようなものに目を向けても、非常にうまくいっています。現在 Google News は40以上の言語で40か国に向けて提供されています。そうした様々な地域からのページビュー数全体で見れば、 Google News が達成できたことは我々にとっては大きな誇りになっています。Google News の年々の成長はわが社の成熟した製品のなかでも最も力強いものです。毎年 Google News での転送量は2倍ずつ増加しています。

私たちがやろうとしていることの中核的な根拠は、非常に筋の通ったものです。とはいえ、我々がリリースした製品には市場ではトップではないものもありますし、ずっとそうならないものもあるでしょう。しかし私たちは多くの製品を世に出したいとおもっています。それらすべてが人々の頭に残らないかもしれませんが、本当に重要なもの、ユーザーポテンシャルを持つものは脳裏に焼きつけられるでしょう。

よくマスコミやアナリストから Google の新製品、例えば Google Checkout のようなものが、既存の枠組みを取り払ってしまうかもしれないという話が出ます。Google は市場を再構築し、競争者を排除してしまうというのは考えすぎなんでしょうか?


私を含めて人は一般に短期的には過大評価し、長期的には過小評価する傾向があります。マスコミ発表を見たときにはそういうメンタリティが働きます。Paypal は非常に優秀な、成熟した製品です。そしてわが社のサービスをよく見ていただければ、Paypal がやっていること、そしてその中心的な力に Google Checkout は立ち向かおうとしてはいません。ですから問題は単に製品が何を狙っているか、理解されていないというだけのことです。

それくらい成熟した製品、たとえば Microsoft Excel のようなものに目をむければ、開発サイクルの初期段階でリリースされる製品のタマゴを持ち続けることは非常に難しいですし、そのことを抜きにしても Excel のようなすばらしい成果を得るのは難しいわけです。隙間に入り込んだときに競争的でありたいかといえば、そのとおりです。非常に成熟した市場の場合には何年もかかってしまうことは覚悟すべきです。

Google のトップページはシンプルですが、これは欠点の一つでもあると思います。基本的なデザインを変えずに製品のアピール方法を変更するということについて、Google の考え方は変わってきていますか?


少し変化はありました。トップページを根本から変化させてすべての製品のラインナップを並べるようなことをしようとはまだ思っていません。しかしどうすればサイトナビゲーションを変えられるのかに関してのキーコンセプトはいくつか考えています。一つは私が「サンアンジェルス」とか、「ロスディエゴ」戦略と読んでいるもので、大きな製品を集めてできるだけ大きなかたまりにするというものです。サンディエゴとロサンジェルスを一緒にして一つの巨大都市にしてしまえば、それは各々の都市よりもずっと大きなものになりますし記憶に残るでしょう。

Google News ではユーザーは時事問題に関心をもち、複数の視点からそうした問題を見たいと考えていることがわかります。こうしたことから、ブログ検索や金融情報といったものを統合するには非常に適した場であるといえるでしょう。そうした様々な機能をどのように統合していくか、私たちは現在考えています。一つの会社から出ている製品を5つや10覚えるのはむずかしいでしょうが、それぞれの製品をまとめて、ずっと大きく、意味あるものへ変えていくことができれば、ユーザーにとって便利になるだろうと思います。ユーザーは製品を覚える必要がなくなりますし。またこれは私たちにとってもうまく働きます。転送量が増えるわけですから。

Google はそうしたすき間に入り込んだ製品を宣伝することは今後ありますか?


4月に行われたダ・ビンチ・コード・クエストのようにおもしろい企画はこれまでもやってきました。ダビンチコードクエストでは Sony Pictures と提携しました。映画の宣伝を作るのと同じくらい Google 社の製品を理解してもらうためのものを開発しました。

このゲームを遊べば、日々異なる Google の製品を見ることになります。数百万人がこのゲームにログインし、少なくとも1つのパズルをプレーしました。たぶん10万人以上が全面クリアしたんではないでしょうか。このゲームにはサーゲイ・ブリンも参加しています。彼はグーグル社員だったから欠格になりましたが、確か10,072位だったと思います。予選通過ぎりぎりでならず、というところですね。

非常に多くの製品の定期的なアップデートを次々と生み出すために、 Google ではエンジニア集団が十分な行動規範を持っていると考えていますか?


エリック・シュミットラリー・ペイジは、Google のいくつかのプロジェクトについてはもう少し組織化された状態が必要だと認めています。しかしながら、エンジニアの心理状態を理解することも重要です。一つのタスクに集中するのに疲れ、別のタスクに移りたいと考える人もいるにはいます。しかし多くは今やっている作業に深く根を張り、最良の製品を作り出したいと考えています。

ニュースチームのリーダー、マイク・ディクソンはニュースに関するバックグラウンドはほとんど持っていませんでした。でも彼は今では世界中のニュースソースや、事件の様々な見方、そしてそうした事件一つ一つについて信じられないくらい精通しています。間違いなく彼はニュースを読む達人になりました。ですから彼にとって Google News が非常に高品質で最高の製品であることは本当に重要なんです。

Google Maps の開発者にとっても同じことが言えると思います。彼らは印刷物としての地図を世界中から取り寄せて研究しています。配色の仕方や、色と色が作り出すコントラストなどについても研究しますし、通りの名前が地図内では道を横切ってではなく、道の中に記されているといったことを研究したりもします。

製品開発の責任者は Google 内でより大きな権力を持つべきだと思いますか?


そうは思いません。私たちはテーマに本当に熱心な人々をそのテーマに関するチームに組み込みます。興味深いと思いますが、私たちはいまだに高品位な生産体制を持っていません。エンジニアがこれこれを作る、と70ページのドキュメントを作成したとすれば、彼は自分の創造性を開発過程で惜しみなく発揮するでしょう。しかし別の人が「ちょっといいか、この部分は忘れられてるけどボクは付け足したほうがいいと思う」みたいなことを言っても、その部分に創造性を発揮しようとは思わないわけです。合意に基づくアプローチでは、何を作ろうとしているのかというビジョンを打ち立てるためにチームが一丸となって動く一方で、メンバーそれぞれがクリエイティブに動き回るための十分なスペースが残るわけです。これは本当に刺激的だと思いますし、実際これまでの最高の製品にはこうしたプロセスから生まれたものもあるのです。